10 おしまいは

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「さあ、本当のところは分かりません。ですが、サラの母親は、私達の父ジェフリーの婚約者でした。そしてサラのこの瞳が、我がアークライト家の色だということは間違いありません」  アークライト男爵が続けて言うには、三男のスタンリーを出産後、男爵夫人は早世した。  しばらくは独身でいた男爵だったが、周囲のはからいで後添えを迎えることになる。  それが、サラの母親だった。 「多少年齢は離れていたけれど、まだ男爵も三十代だったし。なにより、サラの母親はずっと男爵に憧れていたから向こうからの希望でね」 「ルイス。そこに現れたのがウォーベック侯爵の……そういうことか」 「念のために申し上げますと、サラと父の寝室は当然、別でし、ぅぐっ」  軽口をきいた次男は奥方に見えぬ角度で小突かれたようで、小さく呻いたが、クレイグの耳には入っていなかった。  ――かつての婚約者の面影を濃く残す、自分と同じ色の瞳をした少女。  仮初の婚姻まで結んだのは、ひとえに、娘を侯爵家と修道院から取り戻すため。  今までに感じた惑いと違和感が、音を立てて消えていく。  クレイグの目の前に、金の指輪が嵌ったサラの手が差し出された。 「……母のために用意した、指輪だそうです」  いつもサラが指輪に向ける、慈しむような懐かしむような眼差しの意味が。 「助けられなかったと、最期まで悔いていらっしゃいました」 「男爵のせいではない」 「そういう御方です。ご自身の評判を落とすことも顧みず、私に家族を与えてくださいました」
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