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サラが子守としてブレントモア伯爵邸に留まることは、その場で決定となった。
与えられた客間に恐縮しつつも、できれば子ども部屋に近いほうがいい、という本人からの申し出で滞在の部屋は二階へと変わった。
サラと一緒にキッチンでホットミルクを飲んだアルヴィンは、今はまた自室に閉じこもっている。
それでも、大きな一歩に違いはなかった。
「来てすぐに、ここまでとは……」
「私は普通に話しかけただけです。今までの子守りの方は、タイミングが悪かったのではないでしょうか?」
何もしていないと不思議そうに言うサラだが、クレイグや使用人がいくら言っても、動いたためしがなかったのだ。
事故以来、使用人達とも距離をおくようになったアルヴィンは、それまで仲の良かった使用人達のこともすっかり無視している。
「ではきっと、ちょうどよい頃合いだったのでしょう。それで、アルヴィン様の事情は詳しく伺いましたし、私のこともお話ししたほうがよろしいでしょうね。ですが、何から話したらいいか分かりませんので、ご質問に答える形にしていただけたらと思います」
戻った応接室で真っ直ぐとサラに言われて、クレイグは戸惑った。
ルイスの紹介である彼女の身上は保証されている。
その上、アルヴィンが一片なりと心を許したのであれば、どういった人物でも構わないのだ。
しかし一応のことは知っておいたほうがいいだろう――監督保護者として。
「では、子どもの扱いはどこで? 領地の修道院に慰問した程度で身についたとは考えにくい」
「私、もともと修道院の出身なのです。小さい子達の面倒はそこでよくみました」
サラの返事はクレイグにとって予想外だった。
今日は驚くことばかりだ。
「私も子どもの頃に母を亡くしました。一応外聞をはばかる話ですので今は家名を伏せますが、義母とは折り合いが悪かったそうで」
「それで修道院に」
「扱いにくい子だったそうです」
「扱いにくい?」
「ええ。泣きも笑いもしなくて、言葉もろくに話さず……あら、今のアルヴィン様と似ていますわね」
もしかして、だからかしら? と、なぞなぞが当たった時のように表情を明るくする。
返事の言葉を濁したクレイグを気にせず、サラは話を続ける。
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