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「実の父親でさえ持て余した娘を、義理の母が疎ましく思うのは当然でしょうね。五歳の時に弟が生まれて、それ以来ずっと修道院に。……旦那様は私の実母をご存じで、偶然私のことを知って同情なさったのです」
先の大礼祭で中央神殿の手伝いをした際に、生母によく似たサラを見かけたのだという。
入れられていた修道院から還俗するには婚姻を結ぶしか手がなく、最初はそれこそ息子のスタンリーが相手に、という話も出たそうだ。
隠居を考える年齢の男爵と比べれば、確かにその方がずっと相応しい。
「でも、息子さん達には奥様や婚約者がいました。どなたか相手を探す、と仰ってくださったのですが、修道院を出るために知らない方と結婚をと突然言われても……それに、旦那様は本当に素晴らしい方で、」
話しながら染まっていく頬を片手で押さえて、恥ずかしそうに視線を外すサラ。
憧れと愛しさを滲ませて瞳を潤ませる姿に、クレイグの胸は不覚にもドキリと鳴った。
「し、しかし年齢が」
「ええ。私などでは、何もかも旦那様に不釣り合いなのです」
そういうことではないと思うが。
しかし今度は寂し気に瞳を伏せる目の前の女性は、本気でそう信じているらしい。
「気にかけてくださっただけで、どれだけ嬉しかったか。このままお忘れください、と申し上げました。そうしたら旦那様は、自分のところに、と」
「なるほど」
頷きながら、クレイグは内心ではさっぱり頷いていなかった。
故アークライト男爵は中央で目立つ働きはないが大きな政敵も持たない、ある種有能な人物だった。
穏やかだが常に抜け目のない姿勢で臨んでおり、彼や彼の領地と縁を持ちたい者も多い。
その気になれば目の前の女性の婿候補など、それこそいくらでも探せたろうに。
それをせず自分の息子を勧め、結局は自分の妻としたのは彼女を気に入ったからに他ならない。
サラも、年齢の差を超えて男爵を心から――今もなお、慕っているのは傍目にも明らかだ。
何度となく指輪へと落とす視線は、寂しさを纏わせていてもあくまで柔らかい。
クレイグは、その事実がなんとなく面白くなかった。
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