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黒い隠しごと
「私、それがとても好きです」
あ、また言ってる。
まるで<とても優しい女性>のイメージぴったりの完璧な振舞で。
両手の指先をそっと合わせて、上目遣いで、ちょっとだけ頬を染めて、はにかんだ微笑みで。優し気で健気な振舞は、膝元がふわふわした秋にピッタリの落ち着いた深緑のワンピースと純白のカーディガンを羽織った姿によく似合う。汚れを知らないのかと思う程柔らかで綺麗な黒髪をさらりと肩に流している姿は、大人っぽさもあるのに、どこかふわっとした可愛らしさが際立つのがまた余計に彼女の清楚さを際立たせている。
同性から見ても、彼女は可愛い。
私も彼女のことは表面上は気に入っている。
けれど、内心はとてつもなく大嫌いだ。
「え、あ、私ごときそんな……可愛くないですよ。むしろ、亜里沙さんの方が可愛いです」
ほら、例えばこの言葉。
亜里沙っていうのは私のことなんだけどね?
さりげなく別の人を褒めているけど、私は”可愛い”より”綺麗”系。
結局は、自分の方が可愛いと見られる人を無意識に選んでいるのが伺えるのよね。そして謙虚な一面を見せて、さらに自分の棚を上げるようなことをしている。
なんだろう。
自然、なんだけど。
計算高い、じゃなくって。
まるでいいお手本通りに動いているお人形みたい。
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