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同時にキセくんが助手席から叫んだ。
「結城さんっ、すぐに車を停めて下さいっ」
「何だよ」
キッ、、、
とキレの良いブレーキ音の後、
結城さんの頭を押しやったキセくんは次に
俺に向かって大声を上げた。
「汰士さんっ、急いで乗って下さいっ。
対地放電値が急速に上昇していますっ」
「え?」
「僕のノートに搭載されているレーダーが
頭上から強い電磁波を感知しているのですっ」
「電磁波?」
「雷ですよっ」
俺は再び空を見上げた。
「まさか、、、」
瞬間、周囲全てが白い閃光に包まれ、
ダァァァーン、、、
という耳をつん割くような物凄い音が俺の頭を殴った。
白かった閃光はすぐにオレンジ色の渦に変わり、ぐるぐると全身を巻き始める。
声をあげようにも瞬きしようにも、頭のてっぺんから爪先まで、焼けた鉄の杭にでも貫かれたようで動けない。
オレンジの渦が消え、ようやく身体の中からの灼熱を感じることができた後も燻る筋肉はどこも硬直してしまっていた。
キセくんや結城さんの声は聞こえなかったと思う。
後から何度思い返してみても、このとき俺の耳に残ったのは尾を引いて響く雷鳴と、合間合間に、
『お前には不釣り合い』だとか『ヒモ同然』
だとか、、、。
決して親父ではなく、聞いたこともない声が囁いていただけ。
そして自分を支える力を失っていた俺は、
目を開く間もなく、その場で気を失ってしまったんだ ───
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