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その時、不意に親父が訊いた。
「汰、お前は落雷に遭う前のことを覚えているか?」
「ぇ、、、あ、うん。
もちろん覚えてるよ」
「父さんと母さんは確かに柏木さんとお会いしたな」
「、、、うん」
「では汰は何故、彼を家に連れて来たんだ?」
「それは、、、」
─ えーと、、、。
「それは、、、」
柏木さんを実家に連れて行った経緯を考えようとすると、何故か目の奥に痛みを感じた。
── 何だろ、この痛み、、、。
でも、ここで思い出さないと俺の主張を受け入れてはもらえないだろう。
だから、
─ 思い出せ、、、早く、、、。
、、、えーと、
、、、えーと、
「、、、、」
何で思い出せないんだ、、、。
脳ミソを荒いブラシで擦られてるような痛みに耐えかね、俺は咄嗟に思いついた言い訳を口にした。
「そっ、そりゃ柏木さんを紹介しようと思ったからだよ。
だいたい親父たちが騒いだんじゃないか、
『亮介さんとこ出て一体どこにいるんだ』
って。
しかもだよ?
俺が『家主の柏木さんは忙しい人だから、そっちから挨拶に来てくれ』って頼んだのに、『タワマンなんて気後れするからウチに連れてこい』ってさ」
ふいに横から結城さんが首を出して親父に訊いた。
「そのやり取り、一字一句合ってるんですかね?」
「え? 、、、ええ。まあ、、、。
『家主の柏木さん』というところが『彼氏』という以外は」
親父は俺を見ながら答えた。
「おいチビ。
お前は本当に柏木とそういう関係じゃないっ、て思ってんだな?」
もぅ~っ、、、
「結城さんまでっ。
何度も言いますけどっ、、、
【俺と柏木さんはっ、
付き合ってなんかいません!】」
自分でも驚くほど大きな声で否定してしまい、妙な焦燥に負けて俺の顔が歪む。
するとそれまで黙っていた柏木さんが
病室用のスリッパを脱いだ俺の前にスニーカーを揃えてくれてから両親に向かって穏やかに言った。
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