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「あ、いえ、まだ迷い中です。
けど報酬もいいみたいですし、こんな俺でも使い途があるならと思って。
親も安心させたいし、柏木さんとこで飲み食いしてた分と光熱費とかもちゃんとお返ししたいんです。
あ、でも結城さん、俺は柏木さんとこに戻りますよ? だって、、、」
柏木さんの『無理に認めなくてもいい』って言葉に信頼感を得た俺の頭は、随分と柔軟になっていた。
「さっきは動揺して全否定しちゃったけど、もしも俺の記憶が本当におかしくて、柏木さんとそういう関係にあるのなら戻って確かめたい。
その必要がありますもんね」
ちらっと柏木さんを窺うと、笹葉の形に似た穏やかな目で俺を眺めてる。
肩にもう一つのカバンを掛け、まだ不安を隠せないでいる両親に向かった。
俺だって兄貴の死で息子を失った親父の気持ちは痛いほどわかってるつもりだ。
「もし身体の調子が悪くなったら、すぐに病院に戻るって約束するよ。
もちろん親父たちにも即連絡入れるし」
「必ずだな?」
「うん。
、、、何だよ~親父、そんなに心配しなくっても だ~いじょうぶだって。
落雷に遭ったって、こんなにピンピンしてるんだし。
悪運強い俺はね、簡単には死なないの。
さ、帰りましょう柏木さん。
今日は退院なので特別に車、乗せてもらっちゃいまーす」
「結局甘えてんじゃねーか」
水無月さんのヤジを無視し、俺は両親を安心させるつもりでヘラヘラと笑って歩きだした。
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