柏木さんと俺は付き合ってなんかいません!

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しばらくして、車はマンションに到着した。 いつも当たり前のように見上げていた高層マンション。 何も変わりなんかないことはわかる。 でも改めて造りの一つ一つを見れば、 ── 俺、こんな凄いトコに転がり込んでたんだ。 って妙に後ろめたく思った。 車から降りて地下からエントランスへ。 「お帰りなさいませ」 専属コンシェルジュの野々山さん始め、にこやかなスタッフ数人に迎えられて、いつものように俺も頭を下げる。 「お久しぶりでございましたね、、、」 カウンターから出てきた野々山さんが 自分で自分のカバンを持っている俺の姿を見て目を丸くし、柏木さんは困ったように肩をすくめた。 「自分で持ちたいそうだ」 二人の視線の先にあるのが胸に抱きしめている俺のカバンだと気づき、慌てて笑った。 「えへへ、、、。 いつも当たり前のように運んでもらってましたもんね。 考えてみたら いい大人が恥ずかしいんじゃないかなぁって」 野々山さんは意外な顔をして、 「それは私がいつも『お世話させて下さい』とお願いしているからではないですか。 それに柏木様だって汰士さんの荷物を持ったりドアを開けるのは『特権』だって仰ってましたよ」 「そうなんですけど、、、。 それって変なことなんだって気づいたんです。 あ、ほら、だって俺はただの居候で、このマンションの正式な入居者でもないですし」 「そんなことは断じてございません。 汰士さんはれっきとした入居者様。 何より柏木様の大切なお方ですから。 本来でしたら、この私が荷物をお待ちする立場なんですよ」 カバンを取ろうと手を伸ばしてきた野々山さんを避けるようにして俺は下がり、 「いえっっ!」 ついでに思いのほか大きな声も出してしまった。 「汰士さん?」 驚く野々山さんに柏木さんは小さく肩を揺らして笑った。 「好きにさせてやってくれ、汰士の気まぐれも時には可愛いだろう?」 「きっ、気まぐれなんかじゃないです。 柏木さんはじめ、皆さんにご迷惑をかけないよう、これからは自分のことは自分でしようと決めたんです。 なので、、、大丈夫です」 そのまま後ろ歩きでエレベーターホールへ向かうと、野々山さんは初めてTシャツからのぞく俺の首、つまり赤い雷紋に気づいて驚愕の表情をした。 「柏木様っ、 汰士さん、、、一体どうされたのですか?」 柏木さんは『何でもない、大丈夫だ』と言って、野々山さんにはそこに留まるよう合図した。
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