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「うちは毎月食費程度の仕送りしかしてなかったはずだ。
書籍や通学に必要な交通費、小遣いやらはどうしているんだ?」
「それは」
「夜のアルバイトに関しては僕の一存で止めてもらっているんです。
彼は僕から金銭を受け取るのは嫌だと言うのですが、全てはこちら側の都合ですから学生生活に不自由しない程度は受け取ってくれと言い聞かせてます」
「なるほど。
しかし生活の面倒を見て身体の関係を結ぶ。
世間ではそれを愛人と呼びませんか?」
「親父っ。
そんな言い方したら柏木さんに失礼じゃないか!」
てか、いくら家族でも俺に失礼だろっ
「そうよ、あなた。
せめて『ヒモ』とか他に言い方があるじゃない」
「それも問題発言だって!」
穏やかではあったけど、それでも親父は毅然として柏木さんに話し続けた。
「柏木さん。
私は息子が『伴侶にしたい』と連れて来た相手が男性であったことも、その方の親御さんが死刑囚であったことも、誓って問題になどしていません。
比べようもありませんが、我々だって同じ薬業界に携わる人間だ、あなたが現在トップとして就いているフェルディナントファーマ社が世界規模の企業だということは充分に
わかっているつもりです。
実を言えば息子のパートナーとしては願ってもない相手だと思っているのです」
「だったら親父には何の問題もないじゃないか。
俺はいつまでも柏木さんに金で甘えるつもりはないよ。
今だって悪いと思ってるから率先して家事とかしてるし。
大学出た後は普通に就職する予定だし」
「お前は黙ってなさい。
まあ、先ほどは金銭の援助云々とか釣り合いとか申しましたが、、、。
正直なところはですね、
この国際刑事警察機構に準ずるとだけしか言えない、もう一つの勤め先。
これが世間に出ない特殊な、それも国民が知る由もない政府の秘密機関であることが汰士の親としては重大な問題なのです」
「あら、そういえば、、、」
それまで柏木さんを惚れ惚れと見つめていた母親は、はっとして改めてテーブルに置かれた名刺を覗き込んだ。
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