罪なき青天

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「頂いたお名刺は製薬会社の(ほう)だけねぇ。 もう一つのお仕事って、、、。 シークレットサービスかなんか?」 母親は顔を興味津々で柏木さんの反応を待った。 「所属する機関が政府の特殊部というのは仰る通りです。 業務内容に関しては全てをお話できず申し訳ありません」 頭を下げる柏木さんに親父は、 『それは構いません』と前置きして、 「あなたは相当謙遜しておられるようだが、 そういった肩書きは凡人が努力して得られるものではない。 恐らく国内でも選び抜かれた精鋭の集まりでしょう。 命の危険がつきまとうことも想像に易い。 だからこそ伴侶にするならばそれ相応の方を選んで頂きたい」 「俺のこと勝手に決めないでよっ」 「既に聞いてるかと思いますが、私共は 4年ほど前、長男の洋一を(おく)っています。 ですので遺された息子を危険な環境に置かれるのは親として辛いのです」 「汰士君の身の安全は僕の命に代えても守るとお約束します」 柏木さんの声が一際大きく、部屋に響いた。 その言葉の信憑性が絶対だってことは誰よりも俺がよくわかっている。 「では話を繋げましょう。 柏木さん、あなたは国から命の保障を受けている。 いざとなれば所属する組織や政府機関があなたを守ってくれるでしょう。 しかしこの子の身の安全を守ると断言しているのはあなただけだ。 現在のようにセキュリティの強固なマンションに住み続け、アルバイトもさせずに小遣いを与えておけば、危害が及ぶリスクはいくらか減るかも知れません。 だが実際に危険が迫った場合はどうでしょう。 通学も車で送り迎え、更には警護まで付けるつもりですか? 息子は危険に晒されつつも将来仕事もせず、金の苦労を知ることもなく、あなたの元でぬくぬくと過ごす。 我々はそんな矛盾した環境下に甘んじるような息子を育てた覚えはありません」 「親父にそんなこと言う権利ないだろ? だいたい俺は柏木さんを紹介しに来ただけなのにっ、、、」 「汰士」 テーブルに乗り出す俺の腰を引き、柏木さんは首を振った。
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