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プロローグ
彼の携帯にメールが届いたのは、その日の昼過ぎのことだった。
『今日、これから会えないか?』
メールの送り主は、1年ほど前、気になる別れ方をしたまま消息を絶っていた、大学時代の友人――小保方 匡春。
「随分と突然なんですね」
呆れ口調の言葉とは裏腹に、長く音沙汰のなかった友人の無事を知った彼は、小さく溜息を吐いて安堵したように微笑むと、かけていた眼鏡を外しジャケットの胸ポケットにさし入れながら、その肌馴染みの良さそうな革張りのデスクチェアに深く身を預け、胸の前で手を組み目を閉じる。
(無事で良かった……)
アンティーク調の机に置かれた淹れたてのコーヒーから漂う香ばしくほろ苦い香りが、彼もろとも部屋中を安らぎで満たしてゆく。
ここは深大寺探偵事務所。
見える者、見えざる者問わず依頼を受ける、それがこの事務所のポリシーであり、彼が所長にして唯一の所員――深大寺 裕也、その人であった。
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