第一話

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第一話

 窓の外に青色の空が広がっている。その奇想天外なまでの美しさに、私は心を躍らせていた。 「えー。では、転校生を紹介します」  教壇に立つ高校教員が生徒諸君らに宣言して、私は堂々と皆の前に出た。ざわざわとする教室中の視線を独り占めした私は、三回ほど頷いてから口を開く。 「十文字リオンだ。よろしく頼む」  堂々たる私の自己紹介に、生徒たちはぽかんと口を開けている。なんて情けない面なんだ。私は嘲笑った。 「結構可愛くね」「シースルーいいなー」「この時期に転校生なんて珍しいね」生徒たちは私への興味が尽きないようだった。  ふふふ。目立ってる目立ってる。私は嬉々として教室中を見渡した。何の飾り気もない小さな部屋は私の偉大さを知らしめる第一段階としては適当に思えた。人数にして33人の人間を完全に掌握するのは時間の問題だ。 「すみませーん! 遅れましたぁ!」  ドタバタ! ガラガラ! 騒がしい音ともに入ってきたのは黒髪ショートの女子生徒。遅刻してきた女生徒はさらさらした髪を振り回して、深くお辞儀をする。 「すみません、すみません! 初日から遅刻なんて……」  初日? 私はその言葉に反応する。高校教員は目を丸くして、何やら紙切れを二度三度確認してから頭を掻いた。 「あぁ、そうでした。今日は二人の転校生がいるんでした」  無愛想な声でそう言って、 「はい皆さん。もう一人の転校生です」  と遅刻した女生徒を紹介した。「なにぃ!?」私は仰天して、思わず母国語で叫ぶ。幸いにも、ここにいる人間には聞こえない波長なので誰一人として反応しなかったが。 「小林陽菜です! よろしくお願いします!」  もう一人の転校生が私の隣に立って再び頭を下げる。当然、生徒たちの視線はそいつに集まった。悔しくて悔しくて、私は歯を食いしばり小林陽菜を睨みつける。私が独占する予定だった視線を横取りした罪は重いのだ。 「じゃあ、二人はあの、後ろの席に座ってください。必要な教科書とかは、今日は貸し出すので」  高校教員はそう言って、教室後方の空いている席を指差した。気持ちとしては一番前の席に座りたいところだが、転校生という立場上、我慢するしかあるまい。私は「わかった」と了解の意を示して、指定された席に向かった。席に行くまでの数メートル。教室のあちらこちらから飛んでくる視線が気持ちいい。 「リオンさんよろしくね」  着席後すぐに、隣の席に座った小林陽菜が聞こえの良い明るい声音で話しかけてきた。何がよろしくだ。転校時期を被せやがって。気にくわない。 「あっかんべー」  私は相手を侮辱するための技を使った。 「あはは、おもしろーい!」    しかし相手は怯まなかった。それどころか拍手をして私の顔を面白がった。これじゃあ私が侮辱されてるみたいだ。虚しくなって顔を元に戻す。 「んべべっべ。べろべろばー」  私の顔が元に戻るのと同じタイミングで、今度は小林陽菜が顔を変貌させる。白目を剥き、下をべろんと出して、鼻をパンパンに膨らませていた。 「ぶぶーーっ!」  なんて間抜けな顔なんだ! 私は吹き出した。ぎゃはは。盛大な笑い声が教室中に響き渡る。すると黒板の方を向いていた生徒たちが一斉に振り返り私に注目した。まずい。これじゃあ悪目立ちだ。私は良い方の目立ち方をしたいのに。 「こらー。転校してきて逸(はや)る気持ちはわかりますが、静かにしててください」  先生に注意まで食らってしまった。なんてことだ。キッと横を鋭く睨むが、小林陽菜は何食わぬ顔で黒板の方を向いていた。まるで自分は関係ありませんとでも言うような顔だ。このクソ地球人め。私を侮辱したことを後悔させてやる。
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