渇望。

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渇望。

「なんで俺の "お母さん" とやらは、呼んでも来ないんだよ」  スサノオはふてくされて、仰向けに寝て空を見上げていた。  自分は『三貴子』の一柱なのに。あんな小鳥や小鹿でさえ、"お母さん" とやらが迎えに来るのに。 「なんで俺の "お母さん" とやらは、呼んでも来ないんだよ」  ぶすっとした表情で空を見上げているスサノオの元に、あの時の小鳥がやってきた。 「おい。俺も "お母さん" って呼んでみたけど、何も来なかったぞ」 「スサノオノミコトにはお母さんがいないのかな? それとも……」 「それとも?」  スサノオはすぐに立ち上がり、身体についた草を払うこともせずに小鳥の小さな顔を覗き込み、訊き続けた。 「ご兄弟がいらっしゃったでしょう? その順番でお母様が教えに行っていらっしゃっているのかも!」 「……兄弟……」  スサノオは考えた。アマテラスが最初。次がツクヨミ。そして最後が自分。 「そうかもしれない……」 5e896d60-eeec-4f46-ba23-3aea2d9d9dfb  スサノオは空の太陽を思った。アマテラスの統治する時間の太陽は、いつだって出ている時はまん丸で、輝きを放っている。 「それって、完成してるって事なのかも」  スサノオは光り輝く太陽の姿を思い出して、そう言った。  さすがは最初に生まれたアマテラスだ。"お母さん" が教えたから、あんなにいつでも丸く光り輝く存在になれているのか! スサノオはそう思った。 「そう考えると、ツクヨミはまだ完成していないな……」  月は満ちては欠けるを繰り返していた。そして細くなった月は、何も存在しない闇夜も創り出す。  闇夜となる新月を、スサノオは未完成だと感じていた。  その夜も明るく美しく照らしてはいるが、太陽のようではない月を見上げていた。 「お母さんはツクヨミを教えている最中なのか。ツクヨミがアマテラスのように完璧になったら、きっと次こそ俺の番」  スサノオはそう思うたびに嬉しくなった。  そうだよ。だからだよ。生まれた順に "お母さん" は教えているんだ! 「俺も早く "お母さん" に教えて欲しいな……」 スサノオは溢れる強い光を放つ、己の姿に憧れた。  だがツクヨミの統治する夜の月は、不安定だった。満ちるがまた少しずつ少しずつ欠けていく。そして糸のように細くなって、また真っ暗な夜を呼ぶ。 「……何やってんだよ」  スサノオは月の姿を消失した黒い夜空を見上げながら、少しイライラしていた。だがそのゼロの月を超えると、また徐々に月は膨らみ出した。  満月。丸い月。完全な月。 「よし……っ。いいぞツクヨミ!  今度こそそのままで!」  真ん丸な月が浮かぶ夜空に向かって、スサノオは無邪気に何度も飛び上がった。  スサノオは満月のたびに期待し、今度こそは今度こそはとときめいた。  だが月は残酷だった。  いつまで経ってもいつまで待っても、太陽のように完全な姿を継続できなかった。 「ああ……また欠けてきた……」  それでもスサノオは待っていた。ツクヨミだって頑張っているはずだ。だからなくなってもまた満ちることを月は繰り返している。  スサノオはただただ信じて、己の元に "お母さん" が来る日を待っていた。 7fdbe087-fb1d-422e-9312-89baf499537d
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