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白い装束の少女。
上流から流れてきた箸を岩の上に置き、スサノオは乾かしていた衣服を枝から取った。陽光で乾かされた衣服は温かな気がして、スサノオはその太陽のくれた香りに包まれ、安堵感を得た。
誰かがいるのなら、その誰かに会いたい。そんな気がして、スサノオは川沿いの森を上がった。
川の流れる音をずっと聞きながら、ひたすらに上がる。すると緑の森の向こうの方で、白いものが動いた気がした。
「鹿か……?」
……じゃない……白い……
スサノオは音を立てないように用心しつつ、その白いものから目を離さずに、そっと近づいた。
「あれは……」
川のそばでうずくまっていたのは、白い装束の少女のようだった。
風の音も川の流れも、スサノオの耳から遠のいていき……代わりに花のような優しい香りが、スサノオの世界に届いた。スサノオは息をひそめて、ゆっくり静かに近づいた。
どうやら少女は泣いているようだった。そして何か呟いているのか、呪文のようなかよわい声が聞こえた。
「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない……だって 神様の元に行くんだから」
「え?」
"神様" という言葉につい反応してしまい声をあげたスサノオの方を、その少女はバッと振り返った。
「キャーッ!」
「え、え、え!」
スサノオは突然の悲鳴にしゃがみ込んだ。
どどどどうしよう……怖がらせてしまった!
慣れない少女というものの悲鳴に、スサノオは動揺した。身をかがめて隠れるようにしながら戸惑っていたが、なんの反応もないので、そーっと少女の方を確認してみた。
少女はその場で顔を隠してガタガタと震えていた。
「……あのっ……すまない……怪しい者じゃない……から」
スサノオのオロオロした声を聞き、少女はゆっくり顔を向けた。
真っ白な装束に、頭には花飾り。頭から被った薄い布にかろうじて守られている、白い小さな顔と黒い大きな瞳。
その白くて小さくて無垢なものに、スサノオはたじろいだ。
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