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初恋。
川の上流に突然現れた白い装束の少女の姿に、スサノオは言葉も出なかった。
高天原でも美しい女神は多く見た。だが森の持つ清々しさの対比がそうさせるのか、目の前で哀しみにくれている少女の放つか弱さは、何か圧倒的な美しさと共にあった。
スサノオはその少女に目を奪われた。
そんなスサノオから視線を外し、少女はまたシクシクと泣きだした。
「……なんで……泣いてるんだ……?」
少女は答えない。
「道に迷ったのか……?」
少女は首をゆっくり横に振った。
スサノオはどうしていいか分からなかったが、そこから離れる事ができずに、黙って立ちすくんでいた。
少女はスサノオが近寄ってこないまま、離れた位置で立っているのを見て、小さな声で話し出した。
「……夜に……ヤマタノオロチが私を迎えに来ます……」
「ヤマタノオロチ?」
初めて聞く名前だった。
「それは……神なのか?」
「いいえ……ヤマタノオロチは……八つの谷をまたぐような化け物です……」
八つの……谷? まさか。そこは多分、盛ってあるだろう……
などと思いながらも、目の前の泣き続けている少女を見ていると、何らかの化け物は本当に来るんだろうという気がした。
「……俺がそれ、やっつけましょう……か?」
「……え?」
思わずそんな言葉が出てしまった。
少女はスサノオの顔をじっと見た。
見つめられたスサノオは眩暈がしそうだった。目がチカチカするような気さえしてきた。
するとスサノオを見つめたままの少女の瞳から、またポロポロと涙がこぼれだした。
「えっ、あ。……ごめん……俺……俺の事が怖いのか……?もう消えましょうか……」
「行かないで!」
「エ……」
引き止められた事に驚き、スサノオはもうどうしていいのか分からなくて、目を見開いて少女を見ていた。
「あなたが怖いのではありません……それどころか……なんだか安堵して……」
「安堵……?」
俺が怖いんじゃなくて……?
「俺がいるから……安堵したいう事か……?」
スサノオはゆっくり、自分に大切な事を言い聞かせるようにそう言った。
少女はコクンと頷いた。
スサノオは驚いた。
初めて言われたのだった。自分が一緒にいる事に対して、心安らぐと……
「俺にお前を守らせてくれないか」
スサノオは上気した顔でそう告げた。
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