夕方の空に響いたフルートの音色

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 コン、コン、コン。  僕は、イベントの控室として使っている、事務所の奥にある休憩室のドアをノックした。  「どうぞー」という声を確認してドアを開けると、衣装から着替え終わったyucaさんが荷物をまとめているところだった。 「yucaさん、今日はありがとうございました。音響のミス、すみませんでした」  僕は感謝と申し訳なさが入り混じった気持ちで頭を下げた。  ジャンルを超えて活躍する人気フルート奏者のyucaが、僕が企画したイベントに出演してくれた。  このブッキングを実現させたことは、僕がイベント企画の仕事をするようになってから一番の大仕事だったと言ってもいいだろう。  もちろん、同じ音大を卒業した後輩からの頼みだったから来てくれたのは間違いない。  でもそれを差し引いても、今あちこちのライブに引っ張りだこで、人気歌手のサポートミュージシャンとして何万人という大きな会場でも演奏しているあのyucaさんが、山の上の広場で行われる小さなお祭りに出てくれたのは、奇跡に近いことだった。
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