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1-2 冷酷なコウモリ野郎
冷たい外気がなだれ込むように屋内を満たす。
寒風と共にやってきたのは一人の大柄な男だった。
「——よぉ、婆さん。お喋りは済んだかな?」
ティナはその声を聞いて、はっと瞠目する。
あの衆人の中から聞こえた、ティナを——“蒼薔薇”と呼んだ声。
間違いない、この男だ。
「だから言ったろ、傭兵協会からはロクな奴が来ねえって。で、いい加減俺に依頼する気になったかい?」
猛禽類のように鋭い目でその場にいるものを眺め回しながら、獲物を見定めた蛇のような仕草で唇を舌で濡らしている。
前髪が片方に偏ったざんばら頭に、顎には無精髭。
ややこけた頬が男をより危険な印象へと導いている。
黒い迷彩服は確か自由都市同盟軍のものだ。
片手にウォルナット素材のボルトアクション方式の汎用小銃——さらにスコープが取り付けられているということは、おそらく狙撃用にカスタムしたものだ——、そしてもう片方の手には吸いかけの煙草を手にしている。
男は煙草をおもむろに床に捨て、軍靴の裏でにじった。
男の無礼極まりない言動に、ダニタが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ガルバスさん! あんたには頼まんと何度も言っただろう。この村から出て行っておくれ!」
——ガルバス、とそうダニタは男の名を呼んだ。
ティナの脳裏にとある傭兵の噂が過る。
その記憶をひっくり返している間に、モニカがティナの腕の中からすり抜け、無防備に前へと進み出た。
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