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ガルバスの言っていることはでたらめだ。
今回の依頼は直接ティナを指名してきたので協会は仕事を募集していない。
ただ、カウシュフェルトからのナウマン討伐は冬になると度々依頼があったため、あらかじめ予期することは容易いだろう。
「現に俺は集落の若い連中から、ナウマン退治を頼まれていてね。奴らは女になぞ任せられるかと息巻いてたよ」
ティナはちらりとダニタに目をやる。
ダニタは申し訳なさそうに俯いていた。
人垣の前列を陣取っていた村の若い男たちの姿を思い出す。
なるほど、あの疑惑と敵意の眼差しは、そういうことか。
「どうだい、ここは一つ、先にナウマンを倒した方が報酬を得るってえのは。要するに競争さ。面白そうだろ?」
「——断る」
ティナはガルバスの提案をにべもなく撥ね付けた。
ガルバスは無精髭をさすりながら、にやにやと笑う。
「おやおや、蒼薔薇ともあろうお方が。よりにもよって怖じ気づいたか?」
深い溜息がティナの唇から漏れる。
狙撃で鍛えた忍耐も限界に近い。
「これは私の仕事よ。関係ない人間は出て行って」
「ふう、交渉決裂か。なら好き勝手やらせてもらうぜ」
ガルバスはライフルを下ろし、あっさりと踵を返す。
そしてダニタの家を出て行く直前、肩越しに振り返った。
「今度は雪山で逢おうぜ、蒼薔薇」
ドアが静かに閉ざされる。
室内はすっかり冷たい外気で満たされ、暖炉のぬくもりも及ばぬほど寒かった。
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