1-3 蒼薔薇の出立

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1-3 蒼薔薇の出立

 突然の暴力にさらされて呆然としていたモニカが、再び思い出したように泣き出す。  ティナは銃をホルスターに戻し、モニカの乱れた髪を手で梳いてやった。  モニカを抱きしめていたニウカも緊張が途切れたのか、ぽろぽろと涙を零している。 「ごめんね、怖い思いさせた」 「そっ……んな、ティナさんのせいじゃ……ないですっ……」  ニウカはひっくひっくとしゃくりあげている。  ティナは泣きじゃくる姉妹を慰めながら、じっと思考を巡らせた。 (英雄と讃えられたい? 手柄が欲しい? ううん、あいつは……ガルバスはそんな殊勝な奴じゃない。きっとあいつの狙いは——)  ティナは顔を上げると、おもむろに椅子の背もたれにかけてあったコートに袖を通した。  帽子を被り、クラリオンのガンスリングを肩にかけ直す。 「ティナさん、どこに行くんですか……?」  不安そうなニウカの声に、ティナはゆっくりと振り返った。 「今から狙撃ポイントを探すわ。そこでナウマンの群れを待つ」  するとニウカはもちろん、ダニタも目を丸くした。 「お待ちくだされ、ナウマン達が到着するまでまだ日はあります。それにこの時期に外で夜を越すなどとは……」 「そうです、今夜はうちに泊まっていってください」 「私には従機があるから心配しないで。操縦槽には高い機密性があるから、寒さもしのげる。万が一にも仕損じることのないように万全の体勢を取りたいの」  ティナの意思が固いことを悟ったのだろう。  ニウカはやにわに立ち上がると、台所へ赴き、しばらくして毛皮に包まれた荷物を持ってきた。
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