薄氷の弾丸

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(視界が悪いな……。でもいける)  十字のレティクルにその哀れな動物を収める。  狙撃に影響する、風、湿度、気圧を肌で感じ、知識と経験によって計算し、弾道をイメージする。  ティナの意識と連動するように、クラリオンの銃身を淡く光る三つの魔方陣が覆う。  そうして肺に七割ほどの空気を溜め込むと、呼吸を止めてトリガーを絞った。 (ごめんね、もらうよ)  風魔法を利用した三段式加速装置が発動。  同時に、耳をつんざく破裂音が周囲の山々に反響した。  ティナは肩と腕を襲う強烈な反動を制しつつ、息を吐ききった。  銃口から飛び出した6.5ミリ弾は、寸分違わずオジロのこめかみを貫く。  当たりやすい胴を狙わなかったのは少しでも肉を残しておきたいがためだ。  ティナは静かに立ち上がり、全身の緊張を緩めた。  コートの雪を払い落として、枯れ木の森に戻ると、ゆっくりと頭上を仰ぐ。  ——巨人が立っている。  枯れ木の大木にぎりぎり隠れるほどの、巨人が。
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