薄氷の弾丸

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  機兵(きへい)。  いわゆる従機(じゅうき)と呼ばれる機種である。  従機とはその名の通り『機兵に付き従うもの』のことだ。  広く普及している簡易型の機兵で、製造コストが安く、その代わり作りは粗雑だ。  本来は簡易機兵であるが、従機は機兵扱いされていない。  サイズも4、5メートルのものがほとんどで、一般的な機兵のおよそ半分だ。  だがティナの機体の外観は、決してただの従機ではあり得なかった。  左肩から上腕部をほとんど覆う大盾や、両脚部膝関節からせり出した大型シールド。  そしてなんといっても背部から伸びる長い砲身が、その異様を増長させている。  プラズマ・カノン。  旧人類の科学技術の粋を集めた、射撃兵器——いわゆるオーパーツだ。  十年前、幼かった十歳のティナがファースト・フロントで拾ったジャンクは今や、一介の従機に収まらない仕様となっていた。  悪く言えばバランスが悪く、不格好な愛機をティナはじっと見上げた。  そして降り積もった足元の雪を踏み締めるように近づくと、膝のシールドに積もった雪を手で払いのけてやる。 d8cfad09-b2cd-4d20-b44d-7ea6905f8aed 「お待たせ、ローゼ」  ——従機、ブラウ・ローゼ。  金属製の巨人は応えることなく、泰然とそこにあった。  ティナはそれだけで——この世界に両足で立っていられる、いつもそんな気がするのだった。
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