1-1 深雪のカウシュフェルト

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1-1 深雪のカウシュフェルト

 聖華暦(せいかれき)836年2月  目的地であるカウシュフェルトはアルカディア帝国、ダンケルマイヤー侯爵領の北東部に位置する、山深い集落である。  そこは侯爵直轄領の飛び地であり、また北端をカナド地方と接している。  帝国とカナドの地を分け隔てるのは、険しくも勇壮な景観で知られる大ラウス山脈である。  カウシュフェルトはその山の麓に位置していた。  オジロを回収した後、ブラウ・ローゼに乗り込んで山道を駆け下りたティナは、ようやく見えてきた集落の入り口に、一息ついた。  操縦槽(そうじゅうそう)のハッチを開けると、まるで待ち伏せていたかのように寒気が入り込んできた。  それでも先ほどまでいた山の中腹よりはいくらかましだ。  ティナが慣れた動きで操縦槽(そうじゅうそう)から地面に降り立つ間に、集落の入り口にはいつのまにか人だかりができていた。 「もしや、あなた様は……?」  その人垣を掻き分けるようにして、腰の曲がった老婆が進み出た。  そのすぐ傍には年若い少女の姿もある。  この老婆がおそらく集落の長だろうと見当をつけて、ティナは大きく頷いた。
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