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暖炉の火によって炙られた薪がぱちぱちと爆ぜる。
首長・ダニタの家に通されたティナは暖炉に一番近いテーブルに案内され、有り難く冷えた体を温めた。家に戻るなりニウカはエプロンを身に着け始める。
「今、食事の準備をしますね」
時計を見ると、すでに夕刻を回っている。
そういえば食事時か、とティナは思い出したかのように胸中で呟いた。
そこで食料を持っていたことに気づき、肩にかけていた麻袋をニウカに渡す。
「山を下る途中でオジロを狩ってきたの。よかったら使って」
「えっ、わぁ、ほんとだ。しかもちゃんと捌いてある。おばあちゃん、オジロだよオジロ」
「助かります、ティナさん。若いもんは肉が好きですからなぁ」
「私だけ食いしん坊みたいに言わないでよ、もー。ティナさん、今、あったかいスープを作りますからね」
ニウカは台所でてきぱきと働いた。その間にティナは向かいのダニタと仕事の話を始める。
「ご依頼はナウマンの駆除でしたね」
「ええ、ええ、そうなんです」
ダニタは眉を寄せてやや俯いた。
——氷岳魔獣ナウマン。
アルカディア帝国北部山脈地帯に生息する大型の魔獣だ。
太い四本の足に、天に向かって弧を描く長い牙。
成獣では最大十メートルにもなる強靱な巨体は分厚い毛皮で覆われている。
草食性で大人しい性格だが、十数頭で群れを成し、冬期には食糧を求めて村の穀物庫を襲うこともあるため、カウシュフェルトのような集落にとっては危険な存在だ。
「今年は隣山に二十頭あまりの群れが確認されておりまして、一番近いこのカウシュフェルトが襲われる可能性があるのではないかと——」
ダニタの危惧は納得のいくものだった。さらにダニタは続ける。
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