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兄さんが乗った車の運転席には知らない女の人がいた。 後から知ったが、あの女の人は兄さんの結婚相手だった。 どんな顔だったか、全く覚えてない。 きっと僕は最初からこの女が嫌いだったと思う。 「じゃあかあさん、たまには遊びにきてよ」 「年末は帰ってきなさい」 「藍、最後までありがとうな。年末帰ってくるから、また会おうな!」 「うん、お兄ちゃん」 また会えることを楽しみにして泣かしさを無理やり消した。 「それでは御母さん、失礼します。着いたらまた連絡します」 女の人がおばさんに挨拶し、車は行ってしまった。 おばさんの目から一粒涙が流れたのを見て、僕は手を繋いだ。 「藍九郎ちゃんにあげた植木鉢ね、昨日買って苺の種を植えたのよ。氷菓が藍九郎ちゃんにあげるためって」 それを聞いて、家に戻った僕は植木鉢を抱えて、毎日毎日丁寧に育てはじめた。
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