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僕はドアに向かうために廊下を歩いた時、
「あ、藍!電子辞書ドアノブに置いとくから」
ああ。
電子辞書の話もしていたな。
ドアを開ける前に聞こえるように声をかけてきた。
やっぱり兄さん、あまり僕と顔を合わせたくないんだな。
僕もドアの前に立つ。
「うん、ありがとう」
僕らはドアを挟んでいる。
最初からドアなんてなければいいのに。
そしたら気まずくとも、顔を合わせられる。
ドアの向こうには兄さんがいる。
今どんな顔をしているんだろう。
「じゃあ。また明日、佐久間クン」
学校での僕の呼び方。
距離を感じる呼び名。
「はい、先生」
僕も合わせて返事をする。
隣から扉を開く音、そして閉じる音。
兄さんは自分の家に戻った。
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