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見っけた
「なあ、ガキぃ、童貞だろ?ハハハッ」
両目に覆い被さる銀色の前髪の隙間から見える、向かいに座る酒臭い男は、整えてない髭を震わせ、いつ洗ったのか知らない無造作で不潔な髪をかきあげて、愉快げな笑い声の中に不憫さを多少なりとも滲ませて絡んでくる。女の良さと怖さを酒灼けした声でグダグダと話してくるがギフトにはどうでも良い事だった。
この男がギフトの少ない護衛の内の1人として雇われたという事実にも驚きだが、それもギフトには関心の無い事だ。
寧ろ、目の前の男の酒臭さのせいで、開けられた小さな窓から始めて吸う国外の空気が汚染されている事の方が勿体ない気がした。
国をそれほど離れてない場所での事だ。
首輪と両手首に嵌めた輪を繋ぐ鎖は馬車が急に止まった振動で音を立てて揺れた。枷を嵌めているギフトを乗せた馬車は国境に差し掛かった場所で巣から出た全身目玉のグロい魔物に襲われたのだ。
大きい魔物の場合、馬車が潰される恐れがあるから、外に出て馬車を背にして隠れたり逃げたりするように言われている。
「とりあえず、出るか」
酒臭い男に促されて外に出た途端、魔物の触手が伸びて来て、ギフトは死んだなと思った。
しかし、意外なことに、酒臭い男がギフトを突き飛ばし、腰に差していた安物の剣で弾いたのだ。
剣は折れた。安い支給品だ。仕方ない。
酒臭い男も触手の二度目の攻撃に身体の真ん中を貫かれた。安い賃金で雇われた雑兵だ。仕方ない。
しかし、触手に刺し貫かれた時に発した酒臭い男の絶叫は、ギフトを歓喜させた。
手枷のせいで受け身が取れなくて、転がったおかげで痛む筈の全身に鳥肌が立ち、痛みなんて気にならない。なんなら下半身だって熱くなった気がするほどに。
いつの間にか、魔物は他の護衛達によって倒されていた。
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