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金貨は美しい
『あんたは死に掛けた。僕、極上にヤバくてキク薬持ってたから使ってやった。だから、払って』
絶対に危ない薬だろ。いや、でも確かに危ない状態だったはずだ。そもそも、
「死に掛けたのって、お前を庇って刺されたせいじゃねぇか」
一応、仕事しておくかと思ったのもあるが、童貞のまま死ぬのもちょっと可哀想だよなというのもあって前に出たのだ。
『違う。僕を守るのはあんたの仕事。刺されたのは鈍臭いせい。あと、その剣、安物』
それをこのギフトというガキは、ロックと地面に転がされている折れた剣とを交互に指差し、辛辣な意見でもって否定して来た。
「はあー?俺ぁ鈍くねぇよ。剣が安物なのは護衛依頼出して、支給した城のせいだろ?だったら尚更、俺の知ったこっちゃねぇし、因縁つけんなら他当たりなクソガキ。こっちはさっさと今回の報酬の銀貨3枚分に出来れば色付けて払ってもらって、新しくしけ込む先と、また割の良い仕事探すのに忙しいんでな」
『ふーん、お金が欲しいの?』
「ああ、そうだよ!だから、お前が俺に勝手に使ったっていう極上のヤバイ薬に払う金なんか銅貨一枚も無ぇっ」
『じゃあ、とりあえず手付け金にコレ、あげる』
革袋から取り出した金貨を2枚、寝そべるロックの腹の上に乗せた。
「はっ?あっ??おっ前っ、これっ、金貨じゃねぇかっ!本物かっ!?」
1枚、1枚、口に入れて虫歯ひとつ無い歯でガチッと噛んでみる。
「ほん…ものだ…。2枚とも…。俺は…人殺しと薬の売人と強姦だけはやらないと決めて生きている」
ロックは金貨を2枚、ギュッと拳で握りしめた。
「だが、まあ、人殺しと薬の売人はやっても良いぜ。強姦は出来ればお断りだけどな」
手に入れた金貨は、二度とただでは手離さないと今、決めたのだ。
『そ、良かった。でも、あんたがやるのは歌う事だから。あと、清潔感と、多くの人間が他人に求める好感が持てる人物っていうのを演じられれば、もっと沢山の金貨が手に入ると思う。やる?』
「やる!なんでもやらせて頂きますぜ!!ご主人様!!」
『ご主人様?違うよ』
「え?お前が俺を雇って、俺はそれに従って働くんだから、お前が主人で、俺が使用人だろ?ギフト様とお呼びすれば良いのか?」
『…あんたは金貨が沢山欲しい、僕には僕の目的がある』
ロックは頷いて先を促す。
『使えなくなったら、捨てる。利用し合うだけの関係…ね?』
その金貨2枚は本当にただの挨拶代り。何処かの国の引っ越し蕎麦的な意味と言うギフトに、ロックは大きく頷いて、満面の笑みで、
「わかった、わかり易くて良いな。だったら様付けも敬意も無しだな」
了承した。
様付けは兎も角、敬意は貰った金貨にしか無かったが。
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