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良い男は作れる
風呂場を出て、風呂場と繋がるドレッサールームへ入ると、白蘭が用意してくれた服を身に着けさせられ、白蘭にドライヤーで髪を乾かしてもらい、セットもしてもらった。
至れり尽くせりだ。本来ならギフトの命令とはいえ、こんな美女に尽くされて至福の極みだが、今、ここに居るのは捕食者と獲物の自分だ。
寝かされていた部屋に戻ると、机に向かって何やら書いていたギフトが、振り返り上から下まで視線を三往復くらいさせて、
『うん、これなら見た目も大丈夫そう。ありがとう白蘭、大変だったでしょ』
大きく頷いて白蘭を労った。
「いいえ、余程の事がない限り造作も無い事でございます」
「それで、俺はこれから何をすれば良い?」
『コレを食べて、歌って』
ギフトは机に向かって書いていた紙を
『出来た』
と言って、四つ折りにして、ロックに手渡す。
「食べる?って紙だろ?これ…」
「紙は神に通じます」
「何言ってんだ?」
「ご存知の通り、国と国の境にはモンスターや魔物と呼ばれるものウジャウジャおります。そのモノ達は意図して国に入って来ない訳ではありません。この教会から発せられた聖歌、その歌を作りし聖作者、そして聖歌を歌い上げる選ばれし歌を神に捧げる者、略して歌神(カジン)。歌が沢山の人々に浸透し、国民が心から良い歌だと思い、日常で口ずさんだり、奏でたりすれば、それが国を覆う結界として力を持つのです」
「いや、それは知ってる。ちょうど3日前に歌ってた胸がボイーンとして、鈴の音のような声のマリエラちゃんの歌、俺も気に入って何度か鼻歌で嗜んだし。それと俺が紙を食うのと、どう関係あるんだ?」
マジで意味がわからない。
『神力を秘めた紙を食べれば、歌詞と曲がいっぺんに覚えられる』
「普通はピアノ弾いてもらったりして、歌って覚えるものじゃねぇの?」
『僕、楽器出来ない』
「そ。まあ、手間が省けて良いけどな」
四つ折りにした紙を受け取って、
「醤油とかある?」
「ございません」
素気無く否定された。
『味は…美味しい、らしい…』
手触りはただの紙だ。ヤギにでも食わせたんじゃない限り、信憑性が無い。だが、金貨のためだ。
「い…いただきます」
とりあえず、端から噛り付いたが、紙は口に入れた途端、タマゴボーロみたいに溶けて消える。
「あっ、…美味い」
まるで様々な食材を黄金比で入れ、出汁がとても効いた鍋みたいな味だ。
「…ここは普通、甘いとか花の香りがとかじゃねぇか?」
『そっちの方が好き?』
「いや、オエッとなる」
高級娼婦が使ってた便所紙思い出す。
紙は容易く食べ切れた。
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