8 弱さも

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「美子、本当は口に合わなかった?」 真さんに顔を覗き込まれてはっとして、視界に洗濯機の列が戻ってきた。 「え!? 美味しかったです! あんなに美味しいレストラン、初めてでした」  真さんが連れて行ってくれたのは、南青山の隠れ家的なフレンチレストランだった。 予約の難しい人気店らしいけれど、彼が電話をしたらちょうどキャンセルが出たのだとか。 天井まで続く高い窓からはレースのカーテン越しに日差しが差し込む中、白いテーブルクロスの敷かれた丸テーブルに向かい合わせで座って食事した。  真さんの食べたい物が訊きたかったのに、美子は?と譲ってもらえず、「フレンチとか、食べてみたいです」なんておしゃれそうな単語を軽く言ってしまった自分を恨んだ。 フレンチがこんなに高級だなんて、と。 メニューにコース料理しかないなんて、と。
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