8 弱さも

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 マンションに着くと、葵さんは部屋まで付き添ってくれただけじゃなく、本調子じゃない私に代わって、3人分の夕食の宅配まで手配してくれた。 帰りが遅くなりそうだとメッセージが来たのを見られてしまい、心配だからと残ってくれたのだ。 「紅茶淹れたよ」 「すみません、ありがとうございます」 葵さんは二つのカップをガラステーブルに置くと、私の斜め左側にドサッと座って伸びをした。 少しの沈黙が落ちて、さっきの質問は変だったかなと焦り始めた瞬間、葵さんがゆったりと口を開いた。 「真の冷蔵庫って水かコーヒーか栄養ドリンクしかなくてさ、俺と晴でいろいろ持ち込んだよ。居座る名目で真に栄養を与える作戦?ていうのかな。でもさ、真ってああ見えて面倒見いいでしょ? 俺らが腹減らしてるのかと勘違いするみたいで、色々料理し始めてさ。自分のためには作らないのに、俺らに作ってくれて、いつの間にかほんとに居座ってた」 葵さんは、突然の話に追いつけずにいる私の方を見るとふっと笑った。 「美子ちゃんが来てくれて本当に良かったよ。冷蔵庫も、家の中も同じ家と思えないくらい華やいでる。真、ただでさえ親父さんの会社に入ってから根詰めまくりなのに、交友関係も俺ら以外薄っぺらくてね。美子ちゃんが何を心配してるのか分からなくもない気がするけど、真のこと、信じてそばにいてやってほしいと思ってるよ。俺も、晴もね」 「はい……」
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