薄れゆく宝物

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私が再び宝箱と対峙したのは、引っ越しの数日前だった。荷造りをしていたら、押し入れの奥に放置されていた宝箱を見付けた。懐かしい思いと共に、酷い失恋を思いだし、胸が苦しくなった。引っ越し前に捨ててしまおう。でも、中身を分別しないとと思った。 私は古びたダンボールを開いた。かつては宝物が詰まっていたダンボール箱は、今はもう何のときめきもわかない、ただのゴミ箱と化していた。サイン張はもう交流がない子のプロフばかりだし、香りつきだった筈のペンは、匂いがとんでただのペンになっていた。格好良いなと思っていた広大のプラモデルは、今はただのガラクタに見えた。私は笑いが込み上げてきた。この中の全ては、宝物だった筈なんだ。蓋を開く度に笑顔になる、魔法の箱だったのに…。涙まで込み上げてきた。一体いつから、ゴミと化してたのだろう。小さい時は、この中に不要物なんて1つもなかった筈なのに。そしてふと思った。広大は、この中にボロボロのシャツを入れた時から、既にこれをゴミ箱だと思っていたのかな?と。泣き笑いが止まらなかった。なのに私は、この箱を宝箱と信じて移動を繰り返していた。恥ずかしい。広大はその頃にはもう、宝物なんて入れてなかったのに…。私はゴミを分別し、ダンボール箱を処分した。私と広大を繋ぐ物は、もう無くなってしまった。 サヨナラ、お兄ちゃん…。 そう呟くとカナちゃんからLINEが届いたのでスマホを見ると、『もうすぐ新生活!楽しみだね。高校でも宜しく!』と、可愛い猫のスタンプと共に、メッセージが届いていた。 センチメンタルになっていた私の心に、温かい光が差し込んだ。そうだね、カナちゃん。 失ったときめきを嘆くより、これからときめきが訪れるかもしれない新生活を楽しみにしよう。私はスマホをポケットにしまい、新生活への荷造りを再開した。
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