薄れゆく宝物

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私達の宝箱は、1週間交代でお互いの家に置く事になった。私は玩具のペンダントや可愛いぬいぐるみを入れ、お兄ちゃんは完成させたプラモデルやアニメのカードゲームを入れていた。宝箱が自分の所に回ってくる度に、お兄ちゃんの宝物が増えてないか確認し、何かが増えていると嬉しくなった。箱が重くなっていく度に、私達はこんなに沢山の大事な物を共有しているんだと、胸が熱くなった。 私達だけの宝箱。その中の宝物。それは一生変わらないと信じていた。 お兄ちゃんが小学校に入学して、私は宝箱の中のお兄ちゃんの宝物で勝手に遊ぶようになった。ロボットのプラモデルと飛行機のプラモデルを両手に持ち戦わせたり、カードをジッと見詰めて、お兄ちゃんが居ない寂しさをまぎらわせていた。「実果子ちゃんも2年たてば僕と学校行けるよ」というお兄ちゃんに、「嫌だ!私も学校行きたい」とダダをこねて困らせたりもした。 お兄ちゃんは私に、「我慢した分、後に訪れる幸せが濃厚になるよ」と言っていたけど、子供だった私にはよく分からなかった。 お兄ちゃんが小学生になっても、宝箱はお互いの家を行き来していたし、私達は仲良しだったけど、私が知らないお兄ちゃんの友達が増えていく度に、私は勝手に寂しくなった。私はもう、駄々をこねて諌められて以降、何となくお兄ちゃんの友達と遊ぶのを止めていた。私はその時まだ5歳だったのにもかかわらず、遠慮という事を薄々覚え始めていたのだ。帰宅して、ランドセルを投げ飛ばして友達の家に向かうお兄ちゃんの姿を、私は何度も見送っていた。大好きなお兄ちゃんの困り顔をもう見たくなかった。1人で遊ぶ事が増えた私に、知らない女の子達が話し掛けてくる事が増えた。その子達と何度か遊んでいる内に、一緒に居るのが当たり前になった。私はもう、寂しくなくなったし、お母さんは私に女子の友達が出来た事に安堵した様だった。女子の友達が出来た後も、お兄ちゃんとは時々一緒に遊んでいたし、宝箱の移動も続いていた。その時の私は、お兄ちゃん、友達、宝箱…と大事な物が沢山で、とても幸せだった。
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