薄れゆく宝物

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私も小学校に入学し、お兄ちゃんと一緒に登校する日々が始まった。待ち望んでいた日々が始まった事に、私は嬉しく思った。 「実果子ちゃん、危ないから僕と手を繋いで行こう」と私に手を差し出すお兄ちゃんに、相変わらずの優しさを感じていた。 お兄ちゃんと手を繋いで学校に向かう、でも、下校の時は友達とはしゃいで帰宅していた。1年生と3年生じゃ、下校時間が違うからだ。私は下校の時、必ずお兄ちゃんが居る教室の窓を一瞥してから友達の元へ向かった。お兄ちゃん、勉強頑張ってね!と心の中でエールを送りながら、早く一緒に下校出来る様にもなりたいなと思った。 「実果子ちゃんと広大お兄ちゃんって、実の兄妹なのかと思ってたよ。違うんだねー」 ある日の下校中、友達の1人にそう言われて、私は違うよーと答えながらクスクス笑った。 「同じタチバナでも漢字が違うんだ。私は1文字の橘、お兄ちゃんは2文字の立花。隣同士でずっと仲良しだったから、よく兄妹と間違えられるんだけどね」 私がそう答えると、別の友達が、じゃあ結婚出来るね!と言い、私の心臓はドキリと跳ねた。 「ちょ、カナちゃん?結婚て!私達まだ小1だよ。早いって」 「でも私達はいつか大人になるし、その時にまだ宝物を入れ合う素敵な関係が続いていたら、あり得る話かなって。実果子ちゃん、素敵な事を考えたね。そういう人が居るの、羨ましいよ」 カナちゃんはそう言って、フフッと笑った。 「でも、私とお兄ちゃんは別に付き合ってる訳じゃなく、友達だよ…」 そういう会話をしているうちに、自宅近くまで来たので、私は2人に「じゃあまた明日」と手を振り別れた。玄関を開け、中に入ると同時に私はしゃがみ込み、カナちゃんの言葉を反芻させた。結婚…。私とお兄ちゃんは恋人ですらない。でも、大好きなお兄ちゃんと、いつかそうなれたら良いなとうっすら思った。 そんなお兄ちゃんに告白されたのは、私が小5の時だった。お兄ちゃんは中学生になっていて、近所でも評判の良い男子中学生になっていた。昔から優しいお兄ちゃんだったけど、中学に入ると町内会のボランティア活動に参加し出し、町のゴミ拾い活動や高齢者世帯の庭の草刈り、買い物代行等を進んで行う様になり、お兄ちゃんは近所の高齢者の人気者と化した。身長もグンと高くなり、顔付きも少年から男になりつつあり、お兄ちゃんの元には何人もの女の子が彼女になりたいと集まっていった。その度にお兄ちゃんは、「ごめんね、好きな人が居るんだ」と断っていた。 その好きな人が私だと分かったのは、宝箱がきっかけだった。お兄ちゃんの家から回ってきた宝箱を開くと、『橘 実果子様』と書かれた手紙が入っていて、中身を読むと、小さい時からの私への強い恋心が丁寧な字で書かれていた。手紙の最後に、もしも僕の想いに答えてくれるなら、同封した指輪を左手の薬指にはめてほしいと書かれていて、封筒を確認すると、ピンク色の石が付いた玩具の指輪が入っていた。PS、本物の指輪は大人になるまで待って!という文にクスクス笑って、私は指輪をはめ、彼に見せる為に家を飛び出した。
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