薄れゆく宝物

5/10
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
幸福は永遠に続かない事を知ったのは、彼が受験勉強に専念し始めた中1の夏だった。中3の夏が大事な時期だと知っている。私だって2年後には、同じ状況になるだろう。彼はボランティア活動を辞め、勉強に専念し始めた。私はボランティア活動を続けていたけど、彼が居ないと寂しいと思った。私との時間も、勿論減っていった。たまに息抜きとして短時間だけデートしてくれたけど、足りないなと思った。あんまり放って置かれると、私どっかに行っちゃうよ?と指輪に話し掛けたりしたら、余計に寂しくなった。むなしい…。 私は久しぶりに宝箱の中をじっくり観察した。宝箱を始めた当初に入れていた玩具のアクセサリー達が懐かしい。広大はカードとプラモを入れる事が多かったな。小さい時の自分達を思い出し、少し切なくなった。他に何があったっけと中身を漁ると、満点のテストが出てきたり、サイン帳が出てきたり、香り付きのカラーペンが出てきたり…宝物と共に思い出が甦り、胸が熱くなった。宝箱はやっぱり宝物の宝庫なんだと当たり前の事を考えていると、彼が昔よく着ていたシャツが出てきた。ヨレヨレで、いくつかボタンも取れかけていた。それでもこの中にあるという事は、彼にとっては宝物なんだろうなと思った。私は彼のシャツをキュッと抱き締めて、箱に片付けた。そしてそれを持って、彼の家に向かった。 チャイムを鳴らすと、すぐに彼が出てきた。 「広大、これ…」 私が宝箱を彼に差し出すと、彼は一言ゴメンと言い、宝箱を押し返した。 「実果子、ゴメン。しばらくそれ、休止させて貰って良いかな?勉強に集中したいんだ」 私は宝箱を返されたショックで何も言い返せなかった。彼はそんな私の姿を暫く見詰めていたが、やがて何も言わずに自宅に入っていった。 その日から私達は、何となく溝が出来てしまった。学校で顔を合わせれば会話はするし、たまに隠れてキスもする。でも、何故だろう。すぐ側に居るのに、彼が遠くに居る感じがする。デートは全くしなくなった。誘われないし、私から誘うのもためらわれた。受験戦争に勝つ為に、必死で勉強してる彼氏の負担になりたくなかった。その代わり、私はよく差し入れをした。缶コーヒーだったり、手作り弁当だったり…バレンタインには、勿論気合いを入れてチョコレートケーキを焼いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!