薄れゆく宝物

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彼の努力は、報われなかった。受験に失敗した彼は、進路志望表の第3志望の欄に適当に書いた、あまり評判の良くない高校に入学する事になった。私は広大が、必死に勉強している姿をずっと見ていたから、努力は裏切る事もあるのかと、彼以上に呆然とした。泣きじゃくる彼に、私は何も言えず、ただ胸を貸す事しか出来なかった。可哀想なお兄ちゃん。私は彼によく勉強を教わっていたのに、そんなお兄ちゃんが高校に落ちてしまうなんて…。私は心中で彼の事を久しぶりにお兄ちゃんと呼び、彼の失敗を憐れんだ。 4月。宝箱の再開は出来ないまま、広大は高校生になった。私も中学2年になり、お互い新生活が始まった。新生活は忙しかった。勉強はグッと難しくなるし、部活では後輩の指導もしなければならない。ボランティア活動も続けていたので、私は常にバタバタしていた。そんな忙しさの中、少しずつ私達は疎遠になっていった。勿論時々スマートフォンで連絡は取っていたし、家の前で偶然会った時には、抱き合って口付けをした。離れていても私達は恋人という事を強調する様に、私は彼に強く抱き付いたし、愛してると何度も呟いた。彼は笑っていた。俺も愛してると言いながら。私はそれを信じていたし、疑いたくなかった。
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