薄れゆく宝物

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日々が流れていく度に、広大の悪い噂が耳に入る様になっていった。私は信じたくなくて、人から何を聞かれても「分からない」と答えていた。どうして彼女なのに分からないの?と聞かれても、私には分からない。広大とは最近会ってないし、たまに見掛けても声をかけるのを躊躇ってる自分が居た。明らかに外見が変わっているのだ。高校入学前は、ワイシャツにスラックスという清楚感がある服装だった広大が、最近はビリビリに破けたパーカーに、同じくビリビリに破けたジーンズを着用し、耳にはよく分からないデザインの、大ぶりなピアスを付けていた。勿論外見が変わったからって、内面まで変わったとは限らない。でも私は確かめるのが怖かった。噂通りになっていたら、私はこれからも自信満々に、広大の事を愛せるか分からない。 広大の悪い噂は、万引き、かつあげ、強姦など、聞いているだけで不快になるものばかりだった。小さなものでは、テストの度にカンニングしてるなんていうのもあった。それが本当だとして、どうしてそうなってしまったのだろう。やっぱり評判が悪い学校に入学してしまったせい?所詮は噂、私は広大が無実だと信じたかった。けど、あの服装を思い返すと分からなくなった。ボランティアでの町内ゴミ拾いに参加しながら、私は広大の事を考え続けた。他の参加者も、広大の事で持ちきりだった。悪い子になったんだって?かつてはヒーローだったのにね。そんな話がそこかしこから聞こえてきて、彼女である私も、何人かから話を聞かれた。 季節はそろそろ雪でも降りそうな、11月になっていた。 久しぶりに広大に会ったのは、ゴミ拾いから数日後だった。広大は私がよく知ってる姿で、私の家のチャイムを押した。応対に出た私が見たのは、ワイシャツにスラックス姿の広大で、耳には何も付けてなかった。私は安心した。かつてのお兄ちゃんが帰ってきたと思った。ちょっと話があるという彼についていき、小学生の時によくデートした公園に移動した。ベンチに座ると、自動販売機で買ったココアを差し出されて、やっぱり噂は噂なのではと思った。彼は私と少し距離をとって座ると、缶コーヒーを少し飲み、別れて欲しいと呟いた。
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