薄れゆく宝物

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私は何を言われているのか分からなかった。 確かに最近は疎遠になっていた。悪い噂で更に溝が出来ていた。でも、私は…。 「どうして?」震える声で訊ねると、俺の噂知ってるだろ?と彼。 「俺はもう、昔の俺じゃないんだよ。だからもう、実果子には俺に関わってほしくない」 「万引きも強姦も、本当だというの?」 彼は何も答えなかった。本当に、昔のお兄ちゃんはもう居ないというの?嘘でしょ、広大。私はそれでも、別れたくない。私が彼を更生させる!大好きだったお兄ちゃんを取り戻すよ。 私は彼に近付き、口付けた。そのとたん、私の口を無理矢理こじ開け、彼の舌が入ってきた。初めての感覚に戸惑っていると、いつの間にか私は彼にベンチに押し倒されていた。 「言っただろ、昔の俺はもう居ない。受験に失敗した日に、死んだんだよ」 「広大、人は更生出来るよ!自首しよう?私は何年でも待つから」 「死んだ人間は蘇生不可だよ」 そう言って彼は私の胸を触ったので、私は思わず手づかずの缶ココアで彼を殴った。彼が怯んで離れたところで、私は後退りした。 情けなくて涙が出た。ついさっき彼を助けると誓ったばかりなのに、今ので彼が怖くなった。私が彼を救うなんて無理だ。 「ほら、それがお前の本心だよ。お前は昔の俺しか愛せないんだよ。今の俺はお前にはもて余す。それに俺、もうとっくに別の女居る。お前はもういらないんだよ」 グウの音も出なかった。私は昔の広大しか愛せないから、戻そうとしたんだ。てか、今何て…? 「…昔は好きでしたか?私を愛してましたか?」 私は広大に問い掛けた。 「…ああ、子供の時は本気で幸せにしたい女だったよ。でも、所詮はガキの恋愛だった。それだけだったんだよ、俺達は」 私は左手の薬指から、スッと指輪を抜いて、広大に投げ付けた。サヨナラと呟くと、彼は指輪を踏みつけて壊した。バキッという音とともに、私の初恋は幕を閉じた。 本当はまだ聞きたい事が沢山あった。 どうして悪事に染まってしまったの?とか、既に別の女が居るってどういう事?とか。 でもそれは答えが想像出来るよ。だから聞かない。 言いたい事も沢山あった。 子供の頃、可愛がってくれて有難うとか、勉強教えてくれて有難うとか、一時でも私を好きになってくれて有難うとか…私も広大を愛してたとか。でも、酷い別れ方をするくらいなら、最初から兄妹もどきのままでいれば良かったね、お兄ちゃん…。
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