薄れゆく宝物

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広大を失って、落ち込む日々が続いた。 あんな男に成り下がってしまったというのに、寂しくなった左手を見る度に切なくなった。カナちゃんはそんな私を励まし、よく遊びに連れて行ってくれたし、奢ってくれた。申し訳なくなった。沢山励ましてくれているのに、何日たっても立ち直れない自分に構ってくれてるカナちゃんに対して。そんな事気にしないで!元気になるまで私は待つよ!友達じゃない!というカナちゃんはニッと笑う。小学1年の時に出会った彼女は、今も私の大事な友達だ。有難うと呟くと、彼女は私の背中をポンと叩いた。 友達との交流と迫ってきた受験勉強で、私は広大との事も宝箱の事も忘れていった。ボランティアは辞め、私は中学卒業までカナちゃんをはじめ女子の友達の中で楽しく過ごし、行きたい高校の為に勉強を頑張った。新しい彼氏は作らなかった。どんなタイプの男の子でも、広大を思い出しそうで怖かった。だから告白される事があっても、全て断っていた。友達との時間と勉強だけが、その時の私の全てだった。時々家の前で広大にバッタリ会い、気まずい思いをしたが、高校に受かってしまえば、それも解決する。 努力の甲斐あって、私は第1志望の高校に、友達と一緒に見事合格した。 やった!クラスも一緒だと良いね!というカナちゃんとハイタッチして、私は高校合格を喜んだ。春にはもう私はこの町に居ない。隣町の寮がある高校に進学するのだ。広大とも、もう…。
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