薄れゆく宝物

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私の隣の家族は、私と同じタチバナという苗字だった。うちは橘、お隣は立花。立花家には私より少し年上のお兄さんが居て、私は立花のお兄ちゃんと呼んでいた。2歳年上のお兄ちゃんは、私の事を実の妹の様に可愛がってくれて、よく一緒に遊んでくれていた。「実果子(みかこ)ちゃん」と私を呼ぶお兄ちゃんの声はいつも優しく、大好きだった。 お兄ちゃんが小学校に入学するまで、私達はいつも一緒だった。時にはお兄ちゃんの友達と集団で遊ぶ事もあった。優しいお兄ちゃんの友達は、やっぱり優しいお兄ちゃん達だった。女の私が仲間に入っても、嫌な顔をしないで遊んでくれた。私はお兄ちゃん達と、かくれんぼや鬼ごっこ、時には川に入って蛙やオタマジャクシを捕って遊んだ。毎日泥だらけになって帰ってくる私を見て、母はその度溜め息をついた。実果子、広大(こうだい)君と遊ぶのは良いけど、女の子の友達も作った方が良いわよという母の言葉を聞き流す幼少時代だった。私は、お兄ちゃんの事が大好きだった。本当に心から大好きだった。 ある日、私はふと思った。私には大好きな物が多すぎる。だから、それを1つに纏めて、一目で見れる様にしたら素敵だなと思った。 ついでにお兄ちゃんの大好きな物も見たかった。お兄ちゃんが何を大切にし、何を素敵に思っているのか知りたかった。私はお兄ちゃんに、私達の宝箱を作ろうと提案した。お兄ちゃんは楽しそう!と賛成してくれて、ダンボール箱を用意してくれた。ダサくない?という私に、2人で飾り付けるんだよと言いながら、折り紙やクレヨンを抱えて持ってきてくれた。私は金色の折り紙を星形に切り、糊でダンボール箱にペタペタ貼っていき、お兄ちゃんはクレヨンでダンボール箱にロボットやウンチを落書きしていた。ミスマッチ。でも、大好きなお兄ちゃんとの大事な宝箱。この中に何を入れようか、私は胸を弾ませた。
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