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頬が刺さるほどの寒い日の夜、改めてショーウィンドウを見るといつもとは違う俺がいた。細身のスキニーパンツに灰色のコートで、襟の隙間から紺のセーターが覗いている。自分がこんな格好をしているなんて。百貨店のショーウィンドウを鏡に見立てながら服装を確認していると、後ろを通る人々に見られているような気がした。いつもなら見向きもされないのに。俺は気を紛らわすように軽く屈伸し、伸びをする。少し身体が温まってきた。さらに上半身を捻っていると、向かいにある駅の改札口から一際目を引く女の人が歩いてくる。
千場さんだ、まさか本当に彼女が来るなんて。
風になびくうねりのない黒髪に膝まである黒いブーツ、そして一番は無彩色のサラリーマンたちの中では圧倒的に目立つ真っ赤なコート。高校生とは思えない大人っぽさがあり、見とれてしまう。颯爽と歩く千場さんの姿はそこだけ見れば、まるでファッションショーのようだった。ランウェイを歩き終えた彼女は俺の隣まで来ると、スマートフォンを取り出し弄り始める。
もしかして、千場さん気づいてないのか。少し見渡せば、誰かを待つ人で溢れかえっている。待ち合わせここじゃない方が良かったか。ふと隣を見ると、めったに見られない俯瞰視点の彼女に鼓動が早くなる。自分が頭一つ分大きいせいか、千場さんがどこか愛らしい。
「あの、何か私に用ですか」
様子を窺っていたことに気づいたのか、千場さんが睨みつけてきた。
「あ、あの、俺は」
「先に言っておきますけど、人を待っているのでナンパとかだったら他の人あたってください」
何か聞き出す前より先に忠告されてしまう。相変わらず仲がいい人以外には手厳しいな。彼女のきつい態度に苦笑しながらも話を続けようとした。
「俺も待ち合わせしているんですけど」
「もう話しかけてこないでください」
さらに千場さんは突き放そうとしてくる。ナンパしているつもりじゃないんだけど。ついに、彼女は去るように背を向け歩き出した。
「ちょっと待ってって」
思わず彼女の腕を掴む。振り返った彼女は苛立ったように舌打ちした。
「あんまりしつこいと大声出しま」
「『アヤミ』さんですよね? 今日一緒にライブへ行こうって誘ってくれた」
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