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また、俺たちの時間
楽屋にテロリスト予告が届いた。
マチソワ間の大事な休息時間。
暖房が少し不快だ。
もう一月の後半だし使うしかないのはわかるけど、それのせいで楽屋の空気が乾燥し、少し喉にきてる。まだ夜の一公演が控えてるのに、困る。
電話中のあいつも、話しながら時々咳き込みそうになるのを堪えてるのがわかる。
「……はい、それはもちろん、わかって……っ、はい、さっき会って……澤木さんにも言われました、危ないことをするなって……」
養成所時代の同期、今作の共演者、そして役の上での相棒、佑真は部屋の隅で舞台衣装のまま必死にスマートフォンに向けて弁解や反省の言葉を並べていた。
さっと他の鏡前を見渡すと、同部屋の共演者たちはその様子を見て笑い声をこぼしてる。
さっき終演した昼公演の客席に、悪質マナーの客がいた。
開演前までには電源を切っておくのが常識なはずのスマートフォンを、上演の真っ最中にも関わらず、舞台を見もせず操作していた男性だ。
その時、俺と佑真は舞台上にいた。
そして、演出の一環として二人客席の回廊に降りてロビーへと駆け抜ける時、こいつはあろうことかその客のスマホをその手で奪って走り去ったのだ。
大胆と言うか怖いもの知らずと言うか向こう見ずと言うか……
例の客は事務所の関係者だったらしい。
ついさっき、偶然観劇に来ていた佑真の先輩の俳優、澤木幸人さんに咎められたばかりで、今はスマホを回収しに行ってるとこだろう。
その澤木さんに叱られたのは佑真本人も、なんだけど……
「いや、感想なら後で、とは言われてますけど……」
あんな人気の実力者にフィードバックもしっかりもらえるのか。
「千裕」
隣の鏡前から別の共演者に声をかけられ、にやついた顔でSNSの投稿がずらっと並んだ画面を見せられた。
情報が広がるのはあっという間だ。昼公演の観客の感想に始まり、佑真の奇行はすっかりファンたちの間に知れ渡ることとなっていた。
俺もふと笑う。
……半分は、理由は何であれ注目されてることに対するヤキモチだけど。
結構、思い当たったらすぐ手が出るやつなんだよな。
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