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 今日も今日とて教室の片隅。  いつも通りうじうじしてたら、白岩さんに声をかけられた。  呼び出される感じで人が少ない廊下へ。 「ごめんね、急に。宇原くんに話したいことがあって」 「別にいいよ。何の話?」  声音も表情も皆のお姉ちゃん的な白岩さんだ。 「隠していた事があって。本当はもっと早く伝えるべきだったんだけど……」 「隠し事?」  あー、あー、と何かを躊躇うように白岩さんが視線を彷徨わせる。 「あっちの私は--あ、佳穂は宇原くんの前にはもう出てこないです。私達が家のことをちゃんと選んだから二つに割れたかすがいは役目を終えてしまったと言うか、ですね」 「それを伝えに? もう居ないんだろう、と少し考えてはいたけど」  嘘です。少しじゃないです。それしか考えられなくて泣きそうでした。 「いえいえ、まだ居なくなってないというか、元に戻ったというか。佳穂は、私があっちの記憶を持ってないと思ってた訳ですけど。全然持ってたんですよね、これが。最初は佳穂の存在を認められなくて、色々誤魔化して、そのまま有耶無耶に……」  言いづらそうにしている意味が徐々に通じて来る。 「それは、えと、つまり?」 「結局の所、あっちも私、こっちも私と言いますか。私の中に息づいていると言いますか。ちょっと恥ずかしいので、佳穂らしく振る舞うのはまだ待ってください」  パタパタと手を降って本当に佳穂さんらしくはない。 「佳穂と初めて会った時にメッセージを送ってくれた通りです」  消去したはずのチャット画面。そのスクショを見せてくる。  一言『本人』とだけ送ったものは、佳穂さんと初めて会った日のものだ。 「やっぱり私本人だったんです。ようやくそれを認められた訳ですね」  スワイプして行く先行く先、チャットの画像が並んでいる。消させたくせに自分は手元に残しておくとか。 「佳穂は何度も見返してまして。そしてそれに気づいている私の恥ずかしさといったらもう--もう! ですよ」  白岩さんが赤くなって、一際声を大きくする。 「そんな訳で、何を話したとかちゃんと覚えてて。色々と話に付き合ってもらってたのが、凄く助かってたといいますか」 「それはこっちも都合が良かったというか、ね」 「それでもいいですよ」  うん、と頷いて白岩さんが咳払いを一つ挟む。 「君の助言通りに諸々を天秤に乗せてみたんだ。母親に着いて行くと県外に転校する必要があってさ。それだけで父親の方に傾いちゃったんだよね」  恥ずかしそうにしながら、佳穂さんがこっちを見た。  聞いてもいいだろうか。  いや、聞こう。 「どうして?」 「君がここに居るから」
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