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ことの始まりは放課後のバイト、その帰りだった。
バイト先は学校の最寄駅から反対に同じだけ歩いた所にあるコンビニ。
「お疲れ様です」
のんびりと徒歩十五分の距離を倍の時間をかけて歩く。家に帰りたくないんです。
両親のあれは一種の病気だ。しかも不治の。治す必要も今では感じないけど、当てられるこっちの身にもなってほしい。これでどうして我が家には一人息子しか居ないのか。子供が出来る仕組みを知ってから続く疑問だが、尋ねたら一年後には弟か妹と対面していそうで怖くて聞けない。
そういう訳で家は怖いので、外に出るとついつい引き伸ばし工作をしてしまう。
思い悩む必要すらない下らない思考と風景、環境音を背景に置いて歩く。これがメンタルを休ませるのに丁度いい。
普通に生活している中でもメンタルは意外と気張っている。校長の長話を聞いてると立ってるだけなのにだんだん足がしんどくなって来るのと同じ。負荷はある訳だ。特にバイトなんて機械的にやってるつもりだけど、お賃金を思うだけで勝手に背筋が伸びる訳で。
下らない思考をぼろぼろと道端に捨てて駅前に付いた所で、妙な光景を見た。
「職質?」
駅前脇のベンチで警官二人に話しかけられている制服姿のクラスメイトが居た。
名前は白岩佳穂。友人の友人という感じで、たまに遊びに出ると一緒になったりする。とはいえ、積極的に絡んだこともない。顔がわかる、声がわかる、交友関係のごく一部がわかるという程度。誠実で、クラスのお姉さん的な立ち位置というのがイメージだ。
その白岩さんだが、何か言おうとしては口を噤んでしまう。そんなことを繰り返しているようだ。
恐らく困っている。
結論が出た。珍しい物を見た、で済ます。
納得の回答に内心で頷くと、その後ろで警鐘がなった。
今見たことは友人に多分話す。注意をしていても何かの話の繋ぎにぽろっと零してしまう。気安過ぎるというのも考えもの。警戒心が行方不明になる。
そうすると、お優しい友人様は友人のピンチを見過ごした友人を怒る。超怒る。俺も友人では? 格差が辛い。
未来が見えてしまったので、ため息一つ。
二人組の警官にそろそろと近づいて声をかけた。
「あの? 彼女が何か?」
「君。彼女の友達?」
「はい。一緒に帰る予定で。バイト終わるまで待ってくれって話してたんですけど。自分も彼女も西校生です」
制服で気づいているだろうが、後ろめたいこともないので学生証を見せる。
「あー、そう。なら……いや。彼女ね、五時くらいからずっとこのベンチに居てね。もう四時間くらいになるじゃない。で、そういう子は家出だったり、変なのに声かけられたりとかあるから。ちょっと話をね」
「それは、すみません。僕のミスですね。バイト終わる時間を間違えて伝えてました。どこか店に入って待ってると思ってたんですけど、当てつけに意地でもここで待ってたっぽいな。そりゃ、お巡りさんにだって、すっぽかされたからじっと待ってたなんて正直に言うのちょっと恥ずかしい」
同意を求めるとコクコクと頷きが返ってきた。これで、この場ではそういうことに決まる。
「そんじゃ帰ろっか。もういいですか? 待ち合わせとか次からは気をつけるんで」
「まあ、そうだね。特にトラブルがある訳じゃないんだね?」
理由に少し呆れを滲ませながら、警官の一人が念押しのように確認してくる。仕事熱心だ。いつも街が平和なのは貴方達のおかげです。
正面から問題ないと応えて、ベンチでこっちを見上げている白岩さんを促す。
「ご迷惑をおかけしました」
白岩さんが言葉と共に警官に頭を下げた。
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