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彼女が並んで来るのを待って二人で改札に向かった。一緒に帰るという話をした手前さっさと別れるのも微妙だ。
一応こんな事になったので、聞いてみる。
「何してたの?」
「別に。ちょっと、ボケっとしてただけ。と言って信じて貰えるか心配でさっきは困ってた」
乾いた笑みが返ってきた。
「四時間も?」
「持て余した四時間だから」
まあ、そういうものかもしれない。無駄にのんびり歩いて帰る身としては、あまり人のことを言えない。
気にかかるのは彼女の答えよりも、声音や表情。こんなに陰のある演出をする人だっただろうか。
「何かあった?」
「別に。何で?」
「雰囲気違うように見えたから」
「そんなに違う?」
「別人かな、と思った」
大げさな所を選んで返してみる。
遊びに出かけた事もあるクラスメイトの顔は流石に見間違えない。激似の双子が居るとかそういう設定を盛ってくるなら分からないけど。
「--別人だよ」
足を止めて白岩さんが変なことを言った。
流石に見間違えない! とか豪語したの誰だよ。それは俺です。マジですか、設定盛ってきている方でしたか。むしろ知り合いだから適当に話してたのに初対面でしたか、すみません。
「あの、お名前を伺っても?」
足を止めた彼女に恐る恐る聞いてみる。
「白岩佳穂です。よろしく」
「はい、よろしくお願いします?」
本人だよ白岩佳穂本人だよ。別人って言ったの誰だよ。それも本人だよ! 意味がわからん。
「何で疑問系?」
混乱していると、追い打ちをかけられる。あなたのせいです。
「激似の姉妹とか居ない?」
「居ないよ。一人っ子だし」
「西校に名前の発音が同じでよく似た二年生が居たり」
「居ないとは言い切れないけど、知らないかな」
なんとも手応えの無い答え。なにか無いか、なにか。もはや別人がどうのより、彼女が白岩佳穂であることの確証を求めている自分が--それが別人かどうか、という話なのでは?
少し冷静になって気づいた。
「今、スマホある?」
「あるけど」
自称別人の白岩さんがスマホを見せてくれる。
記憶にある限り、本人の物っぽい。
確認しながらこっちも行動。スマホを出して、アプリを立ち上げフレンドから白岩さんをコールする。
観察するようにこっちを見ている白岩さんのスマホが鳴動した。画面を確認して、苦笑する。
「どう? 宇原勇輝くん。目の前の私は白岩佳穂本人? それとも別人?」
難しい問題を問われている気がする。答えは出た。それでも改めて問いかける意味について考えると、正解はきっと答えとは違うのだろう。
狡い回答だと思いながら、スマホを弄りつつ彼女に答えを渡す。
「別人」
白岩さんが返答に少し驚いた様子を見せる。でもすぐに小さく笑った。
「はじめまして。勇輝くん」
「こちらこそ、はじめまして」
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