序章 神陵にて

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「これは連邦への反逆だ! 貴様だけでなく、家族も全員死刑じゃすまないぞ!」  返事がないとわかると、追手は語気を強めた。その声が少し震えているようにも思える。連邦最大の国家機密を警備している軍人だ。もし「それ」が泥棒に盗まれでもしたら、彼らも死刑は免れないだろう。  だが、もちろんジグスは情に屈するつもりなどなかった。私にだって使命が託されている。 「馬鹿め、ここには出入り口が一つしかない。どこまで逃げたって、貴様は暗闇の中を彷徨うだけだ!!」  追手の声は次第に遠く、そして弱くなっていった。まるで泣き言を並べるようにその後も何か言っていたが、距離が離れたこともあってよく分からなかった。ジグスは鞄を胸元でしっかりと抱え、岩壁の隙間を這うように進んだ。連邦の人間は気づいていないが、この遺跡には裏口がある。暗闇の中を大人一人がやっと通れるような狭い道だ。ジグスは必死の思いで這い歩き、前方に星のような微かな光を見つけると、ほっと胸を撫でおろして安堵した。  あと少しだ。両脇には硬い岩盤があり、今にも押しつぶされそうである。前後に開いた僅かな隙間は風すらも通さない。屈強な体のジグスが、大きな手提げ鞄を抱えて通り抜けるにはあまりにも狭すぎる空間だった。もし何かの間違いで岩が崩れたら。あるいは体のどこかが引っかかって前に進めなくなってしまったら。ジグスはこの狭い隙間に永遠に閉じ込められてしまうだろう。  そんな恐怖に襲われながら前に進んでいたジグスに、ふと「それでもいいのかもしれない」という考えがよぎった。 (こんなもの、ここで私と共に永遠の眠りについてしまえばいいのだ)
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