序章 神陵にて

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序章 神陵にて

 オードラス・ジグスは急いでいた。両足が鉛のように重い。それでも強い意志と使命感を持って、暗闇の中を駆けていた。 (何としても、この発見だけは奴らの手に渡らないようにしなくては……)  麻で出来た手提げ鞄の中で、「それ」は重々しく跳ねた。ジグスは大事そうに鞄を抱え込むと、目を凝らしながらゆっくりと足を止めた。色がにじむように視界が明るくなり、削り取られ黒い岩肌が顔を出す。予想通りだ、とジグスは安心した。  ただ闇雲にここまで逃げてきたが、侵入した時と同じ道を引き返している。 「ガコンッ」  不意にどこかで岩が転がる音がした。ジグスは足を止めていたので、その音がはっきりと聞こえた。これは足音だ。2人か、もしくは3人。追手で間違いないだろう。ジグスは息を殺して、ゆっくりとそのまま岩肌伝いに歩き出した。 「貴様、自分が何をしたか分かっているのか?!」  今度は大きな声で、後ろから誰かが言った。追手の一人が足を止めて、ジグスを説得しようと試みていたのだ。この真っ暗な巨大遺跡で、一人の泥棒を捕らえることは不可能だと判断したのかもしれない。しかしジグスは声にかまうことなく、忍び足で歩き続けた。
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