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「でもさ、ニレ。考えてみなよ。『夜の世界』なんてものを作れる僕たちの国の技術力の高さ。それって誇らしいことじゃない?」
ふん、とニレは鼻をならすが反論はない。ニレだって認めてないわけじゃないのだ。
「きっとニレより何倍も頭がいい技術者が集まって、何千時間もかけて作ったんだって。それこそ、寝る間も惜しんでさ。それなのにこうして『曖昧トンネル』を作ってるってことは、絶対に必要なんだよ」
「どうだかね。大方、『夜の世界』を作った興奮で行き方まで考えてなかっただけじゃないか? 自分たちが作ったその世界でぐっすり眠って気持ち良くなって、どうでもよくなったって可能性もあるな」
「またそんなひねくれた言い方を……」
「それに、世界ひとつくらいなら、俺様にだって作れるさ」
さっきの影が十分に遠ざかっていることを確認して、カヒが大きなため息を吐いた。
「ニレ、冗談だとしても面白くないよ」
「冗談な訳あるか。世界の作り方はもう公開されてるんだろ?」
「……え……嘘、見たの? あれを?」
「あん? なんでそんな額にシワを寄せてるんだ? 誰だって閲覧できるはずだろ? ……あれ? まさかそう思ってたのは俺様だけだったとか……とか? もしかして秘密事項? 閲覧禁止? 俺様捕まっちゃう?」
どんどん顔色が悪くなっていくニレに、カヒは笑いかけた。
「不安にならないでよ。大丈夫、僕も見たし、全員に公開されてるから」
『夜の世界』を作り上げた時、その方法を『昼の世界』は隠さなかった。見るために制限もかけなかったし、お金も取らなかった。まさに全員に公開したのだ。
「僕が言いたいのは、理解できたのかなってこと。僕も興味があったから見てはみたけど、全くわかんなかったよ?」
安心したニレは、また強気に腕を組み、倒れそうなほどふんぞりかえる。
「はっ! あれくらい、お茶の子さいさい、うちの子3歳だね」
「あれ? ニレ子どもいたんだっけ? もう3歳かあ、早いねえ」
「俺様に子どもなんていねえよ。ギャグだよ、ギャグ」
「こっちだって冗談だよ。ニレが結婚なんかしてたら、そっちの方が驚きだよ。取材に来るんじゃない?」
「ニレ様と結婚できるなんて、なんて幸運、一体どんな素敵な方なんでしょう、ってか」
両掌を合わせうっとりとするニレに、カヒは「いやいや」と首を振った。
「ニレが結婚!? どんな驚きの手口を使ったのか暴いてやりましょう、でしょ」
失礼なやつ、と頬を膨らませるニレの機嫌を取りつつ、カヒは訊く。
「で、本当にわかったの?」
うっかり声のトーンを落としてしまい、本気で気になっていることを悟られてしまったようだ。ニレのニタリと笑う顔を見て、カヒの顔がグッ歪む。
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