2人が本棚に入れています
本棚に追加
「簡単だね。近いうちに、俺様も一個作ろうかと思ってるくらいだ」
「ニレに作られるなんて、その世界はかわいそうだね。同情するよ」
「きっと俺様に似たサイコーでスンバラしく、誰もが驚くハッピーな世界になると思うな」
ニレが目を閉じながら言葉を並べるが、全く想像できない。目を開けるのをまって、カヒは訊いた。
「どんな世界にするの?」
「さてね」
「……秘密?」
ニレは首を振った。口元には薄ら笑みを浮かべているが、冗談ではなさそうだった。
「まだ考えてないだけ。世界の作り方はわかっても、作りたい世界の具体案がないからな」
「ケーキの土台だけレシピをもらっただけって感じ?」
カヒが言って、言い得て妙だと自分でも思った。ニレも「いいね、その喩え」と気分が上がったらしく、体を左右に振っている。
「チョコにしようか生クリームか、トッピングはイチゴかな。俺様モンブランよりそっちが好き」
「僕はスフレが好きだなあ」
「目一杯甘くしたいね。ケーキは甘くてなんぼ。甘くないケーキに価値はない」
「ショートケーキのイチゴはわざと酸っぱいものを選んでるって聞いたけど」
「だから俺様はそれをとって、蜂蜜漬けにしてあとで食べてる」
聞くだけで舌の上が甘くなってきた。カヒはカバンからお茶を取り出して一口のむ。隣で欲しそうな視線を感じたので、残りは全部ニレに渡した。ゴミは床の上に置いていけば『夜の世界』についたときに自動で処理される。
「まあ、なんにせよ、夢の広がる話だね」
「どうせ寝に行くんだ、夢で見た世界でも作るか」と、ようやく眠くなってきたのか、ニレがあくびをしながら言った。「あー、にしても、まだまだ時間があるなあ、本当にめんどくせえ!」
「だから叫ばない、興奮すると寝れないよ」
「だから俺様は大丈夫なんだって。全く、なんだってこんなめんどくさい通路なんか作ったんだか。いっそのこと…………」
「……あれ、どうしたの?」
急に黙ったニレを見ると、何やら口元に手を当てて考え込んでいた。視線が左下をむいているのは集中している時の癖だ。
最初のコメントを投稿しよう!