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昼と夜の間で
昼と夜の間で、ニレが言った。
「無駄な時間を徹底的に排除し効率を突き詰めた結果、こうして暇な時間が生まれるということは、なんとも矛盾した、どこか皮肉めいたものを感じないか?」
弓形の退屈な空間だった。薄水色の、つなぎ目のない壁が延々と続くだけで音楽すら流れていない。窓もないので景色も見れない。真っ直ぐにのびた先ははるか向こうで点になっており、まだまだ先があることをいやでも感じさせる。
「きっと俺たちの国の技術力なら、こうした暇な時間も排除できるような仕組みやらなんやらを作れると思うんだ。なら、なぜそれをしない? 俺様はここにくるとそう考え始めて止まらないんだ。……カヒはどうだ?」
一人ごちているのが寂しくなり、隣の友人に話を振る。自動で動く床の上に座りながら大きなあくびをしていたカヒは、大して間も置かずに答えを返した。
「さあ。考えたこともないからわからんね」
「……考えたこともない? 嘘だろ?」
てっきり同意されるとばかり思っていので、すぐに次の言葉が出ない。あくびを終えたカヒが涙を拭う。
「あのねえ。今から僕たちが何をしにいくかわかってる? 寝に行くんだよ。『昼の世界』から『夜の世界』に。この『曖昧トンネル』を通って」
そう言って両手を広げる。
ニレとカヒの二人が両手を目一杯広げてたとしても、その通路の半分にさせ届かないほど、『曖昧トンネル』は広い。
『昼の世界』と『夜の世界』とを繋ぐそこは常に動く床で結ばれており、乗っているだけで世界間を楽に移動できる。ニレたちが乗っているレーンの隣には逆の方向、つまり『夜の世界』から『昼の世界』に向かって床が動いており、『曖昧トンネル』の中はその二つのレーンしかない。
いつもなら少しは話し声があるこの空間も、今日に限ってはなぜか利用者が少なかった。ニレたちの前にも後ろにも、ひとつも影は見えない。
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