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顔を上げると、いつもどおりの笑顔があった。嬉しいけどツラいことを隠している、ムリをしている笑顔だ。
「絶対プロになってよね。三年後にいい男になってたら、付き合ってあげるから」
俺はいつか、透子が心から笑っている顔を見たいと思った。
◇
宣言した以上もはや後には引けない。しかし、限界を感じているのも事実だ。練習は十分しているし、今までと同じでは解決できない。
(どうすればいい? 他の人に聞こうにもプレイスタイルが……)
ふと、憧れの武藤選手なら解決策を知っているのではないかと思った。俺と同じ悩みを抱えていたはずだ。
ありがたいことに今はSNSがある。世界中からメッセージが来ているだろうから返事なんて来ないかもしれない。でも、手段を選んでいられないのだ。俺は藁をもすがる思いで自分の状況を送ると、意外なことにすぐ返事が来た。
「試合の動画をたくさん送ってくれた。練習メニューまで!」
練習時間は限られているから、プロは効率を重視しムダなことをしない。十分な休息も必要とのことだった。確かに武藤選手の練習メニューは疲れないし、集中力が増した。俺は愚直に練習をこなし続けた。
一年が経ち、インターハイが始まった。スタメンではないもののレギュラーをもぎ取った俺は今、試合に出ようとしている。
「松本、出ろ」
「はい!」
試合はウェブ中継されており、彼女も病室で見ていることだろう。
(俺は奇跡を起こした。だから、次は透子の番だ!)
念じながら俺がシュートすると、ボールは綺麗な放物線を描きながらリングへ吸い込まれていった。
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